良寛と遊ぶ-2002年5月8日

仕事柄、陶芸家にお会いする機会がなにかと多い。

企画展の出展をお願いすると何でもできて、こちらのニーズに的確に合わせて、

なおかつ自分の個性をしっかり表現してくる陶芸家がいる。

そういう陶芸家は重宝がられて、人気もでる。仕事もでる。

しかし、その一方に精神的に不器用で、ナイーブで

自分の殻に閉じ籠るように作陶する陶芸家もいる。

そういう人は、一部の熱狂的なファンに支えられるか、

それとも、別に収入源を得ていくか、

あるいは、食えなくて自滅していくか、

三者択一である。

そういうタイプの作家は、作家の生前には大抵報われない。

絵でも音楽でも文芸でも同じだが、

生前中に、広く一般的に人気を得られないからだ。

 

そして宗教の世界でも同じようなことがあるかもしれない。

だとしたら、良寛はそういう喰えないタイプの人だったろう。

当然の事だが、

空海や道元や親鸞みたいなプロフェッショナルな僧ではなかった。

宗教史に大きく影響をあたえた人でもない。

書や作詩においても、当代の名人って感じでもなかったろう。

当時の熱狂的なファンに支えられた人だったと思う。

例えば私が、

『書』を売り捌いて商売にするような者だったとしたら、

良寛は、実に扱いにくい取り引き先だったろう。

彼に『書』を依頼しても、

書きたい時に、書きたいことを書くだけだろうから。

彼は商売にしようなどと毛頭思ってないのだから。

 

さて、

私は最近ことあるごとに思う、

『この場面、良寛だったら、なんとするだろう』と。

でも、想像される良寛の行動を模範にしていては、

現在の私の生活は成り立たない。陶器屋も続けていけない。

だから最近はこうも思う。

『こんな良寛であってほしい』と。

書や詩でお金を稼ぐ良寛。

相手のニーズに合わせてどんどん書を書き、詩を作る良寛。

そして、それをどんどん売る良寛。

さらにその集まるお金を恵まれない人にどんどん施す良寛。

書と詩のプロフェッショナルであるスーパー良寛だ。

そんな精力的な良寛を夢想するのだ。

しかし実際は下の漢詩に見られるように、書かされるのを嫌った。

酒もタバコも魚も好きだったという天真爛漫な良寛だが、

「僧に非ず、俗に非ず」と言いきったわりには、

なかなか割り切って書かなかったようだ。

『書かせられる』のは、よほど本望でなかったようだ。

そういう良寛が、無性に愛おしく感じる時もあり、

無性に妬ましく感じる時もある。

己自身は『生涯 身を立つるに懶(ものう)く 騰々 天真に任す』で良いだろうが、

そんな生き方で、餓えや病気に苦しむ隣人を実際に救えるのだろうか。

自分勝手な感じがちょっとしてしまうのだ。

良寛と弘法大師を比較したら、

良寛がかわいそうだが、いつも私の頭の中では、二人が交錯する。

空海の書と良寛の書を比較するのも、大罪のような気がするが

誰もが比べたくなるように!

良寛はほとんど乞食坊主で、空海はス-パーマンだ。

がその両極に同じ光を感じるのは私だけだろうか。

その光の源は、大自然の中にあると思う。

とにかく二人は、山の自然をこよなく愛した。

良寛はその愛する自然に溶け込むように生き、

その生きざまで人々の心を揺さぶった。

空海は自然から大いなるエネルギーを受け、

その絶大な力で、衆生を助けようとした。

私的には、後者の生き方を生きたいものだと思うが、

私などには到底無理。かえして、良寛のような生き方が

できるかと言えば、それもままならぬ。

ならば、良寛の書など中買いして、糊口をすすぐか。

なんて気分にもなり…

あるいは

空海と良寛の間に身を置き、

陶器をかついで売る乞食坊主として、諸国を巡業したら…

なんて空想するだけで、いっこうに偽善者として生き恥を曝す日々。

そうそう、ならば

空海と比べるより、西行と比べる方が、支持を得やすいか。

空海の境地を歌に詠もうとした西行。

道元の境地を詩に詠もうとした良寛。

僧としてのこの二人の詩人は、聖人の境地を

自然がさりげなく見せるコトバで顕わそうとした。

自然が源で、自然が言葉で、自然が答え。

二人の詩人は、そのことわりを同じく生きた人だったと思う。

 

どうも今回の書き汚しは、いつにも増してとりとめもないようだが、

先日、笠間の陶器祭りでお会いした陶芸家、

小峰 尚さんの言葉で締めくくりたいと思う。

陶芸家として、あるいは詩人として、あるいは芸術家として

そして人間としての活動を

なんと単純に表現していることか!

 

濃密に漂う山の「気」を満身に受けて、

土から生まれた「もの」たちもまた、

あたかも生きるがごとくに呼吸する。

そうなるまでにささやかに手を貸すこと、

それこそが… 

 

小峰 尚さんは、私の夢想するスーパー良寛的陶芸家かも。

 小峰 尚さんのホームページを是非!

 

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