’06後藤義国作陶展によせて 2006年9月 うつわのみせDEN店長代理 田口巌

はるか壺中のひと 後藤義国

 今年も後藤義国さんに展示会を受けていただきたいへんうれしく思います。
うつわのみせDENの開店当初からのお付き合いで、毎年のように企画展に出展していただてきた後藤さんですが、今回は個展ということで、いっそう渾身の展示会となることでしょう。

この機会にぜひ今回の展示会までの軌跡を振り返ってみてください。

2001年12月 壁を飾る陶展と大きなうつわ展
 

2002年12月 注ぐ陶展

2003年9月  TOGETHERNESS-夫婦のうつわ展-


2005年 後藤義国&レジーナ・イワキリ二人展 

いかがでしょうか。
後藤さんが、どんなにか真摯に陶芸に生きてきたかが見えると思います。
また以前書いたものですが、こんなページ(後藤義国という犀の角)も・・・

今回も新作を用意してもらっていますが、いままでのたいへんすばらしい定番作品も
見逃さないでほしいので、数点見ていただきましょう。

小さなうつわですが、形状に細やかな優しさがあって、後藤さんらしいうつわです。
面取りによる装飾が、うつわをほんとに自然に際立たせている。どこでも見た事無いような、遠い昔に見たような・・・そんな新レトロなうつわ 2005年の新作でした。
しのぎがきれいな花びらを作るように計算されたうつわだが、狡猾な感じがしないのは、自然な仕事の中で発見された景色なのだからだろう。私の大好きなうつわです。
もっともシンプルなうつわの仲間だが、うつわの“ハリ”ぐあいが、とてもいい。最も使いやすく重宝するうつわだろう。

 これらを凌ぐうつわが、今回も出展されるのだろうか?それはわからないし、そういうことに興味があるのではない。それよりも、また後藤義国さんの世界に浸れるのがうれしい。

 今回、招待状(DM)の画像を撮影するのに作品を送ってほしいと頼んだら、後藤さんから壺が送ってきた。それを眺めていたら、中国の故事の“壺中天”を思い出した。
壺中天の故事はこんなのだ。

「市場の中に一人の薬を売る老人(壺公)がいた。その老人は毎日仕事が終わると店の軒にある大きな壷の中にひらりと跳び入る。市場の人々は誰もこのことを知らなかったが、
費長房という役人の助手だけが物見台の上からそっと、その光景を観ていた。なんと不思議なことだ。そこで彼は老人の店に行き、何度もお願いした。すると、老人は彼をその壷の中にいっしょに入ることを許した。そしてその中へ・・・。そこはまさに別天地。見たことも無いような素晴らしい世界が広がり、荘厳を極めた玉殿で、美味しい酒や料理をたらふく飲み食いして楽しんだ。」
つまりこの故事の示す意味は“壺の中のように閉鎖された世界にこそ、ほんとうの楽しみがある”というような事なのだろうが、後藤さんの仕事からも類似した教訓が連想されてくるのだ。この広い工芸の世界において、あえて粉引の食器へこだわるのは、自ら壺の中に入るようなもの。それはまるで利休の茶室。壺中の世界は、引き算の美を突き詰めたわずか二畳の暗い茶室に似ている。自分自身と対峙せずにはいられない静寂な空間。そこで磨き上げられた仕事は、逆に小さな島国から飛び出て、大陸を飛翔する器物となる そんな気がする。“閉ざされた静かな落ちついた狭い場所で”というコンセプトは、このうつわのみせDENの、その名自体にも込められた思い。denは英語で小動物の巣穴を意味し、転じて“奥まった快適で小さな私室”って意味にも使われる。いわば、“壺中”=“den”なのだ。壺中は、閉ざされているようで、どこにでも通じている。“den”もしかり。突詰めた求心性が、逆に閉塞的な文化を飛び越える霊力を培うのだろう。後藤義国の仕事は、そういった壺中のイメージに重なるのだ。

 そんな私の思考の経緯を知ってか、知らぬか、
後藤さんから、無理にお願いした今回の個展へのコメントが届いた。
とても朴訥とした文章だが、後藤さんらしさが漂っていて、ある意味雄弁だ。

 陶器作りは単純な作業の繰り返しが結構多いので、
いつの間にか色々な事を思考していたりします。
ある日は、ロクロを挽きながら
「こんなに良い作りなのに何故高く評価されないのか!ワカルヒトがいないのか!
ヒョットシタラオレハ孤高ノ天才カ!!」などと妄想し、また
ある日は、カップの鎬をやりながら中央アジアのCDを聞いて、
「最近音楽も物もシルクロードに魅かれるのは、きっと前世が
ソコデウマレタカラニチガイナイ!」などと神懸かったりする。しかし
たいがいの時間はおかずのメニューを考えながら・・・
というそんな中から今回の品物は出来てきました。

 こんなもんで如何でしょうか?      後藤


後藤さんの優しく穏やかな声が、遠く果てしない壺中から聞こえた

 そんな気がした。

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